数年ぶりの飯坂温泉(福島市)はずいぶん変わっていた。駅舎が新しくなった(写真左)。以前の無骨な駅舎に比べたら、かなり印象がよくなった。
おまけに駅で自転車を借りられるようになった。これは前もって調べていた。9月から始まったばかりの「ももりんレンタサイクル」は普通の実用車なら無料、電動アシスト付きでも300円と、なんとも太っ腹な企画なのだ。私は電動アシスト付きを借りた。これさえあれば、駅からかなり離れている天王寺穴原湯もラクに行けるハズ。
駅のはす向かいにある観光案内所で地図をもらって行き方を尋ねた。受付の奥にいた男性はサッと立ち上 がって応対してくれ、「片道はこっちのルートを通れば飯坂温泉の中心を観光できますよ」と、新しくできた観光施設「旧堀切邸」について教えてくれ、すかさずパンフレットまで出してきた。
あちこちで観光案内所を利用しているが、いつもはお役所的な対応をされることが多い。飯坂温泉でも前回はかなり事務的な対応をされた記憶があるので、こちらが尋ねていないことまで気を利かせて教えてくれたのは嬉しい驚きだった。
温泉街に繰り出しても変化はあった。波来湯(写真右)は今年1月に新しく建て替えられてオープンし、周辺は川沿いの細長い公園として整備されていた。紹介された「旧堀切邸」は鯖湖湯の近くにある江戸時代の豪農・豪商の旧家で、内部に足湯・手湯もあって入場無料。鯖湖湯の前には古民家風のカフェができていた。なんだか温泉街全体が少し明るくなったように感じた。
電動アシスト車のありがたさを実感しながらたどり着いた天王寺穴原湯はウワサ通りの激アツ湯。実測で47.1度もある。常連のオバサマ方から指導を受けて10杯くらいかけ湯をし、「水をたくさん出していいから、蛇口の ところに入りな」と言われた通り、水道の蛇口直下にエイヤッと入る。スルッとした肌触りの湯は気持いいのだが、水道の水が届かない足先からジンジンとしび れてくる熱さだ。1分も入っていられない。オバサマ方に失笑されながらも、楽しいひとときを過ごすことができた。
飯坂温泉のシンボルである鯖湖湯(写真左)にも久しぶりに立ち寄ったのだが、ここは全然違った。温度は穴原湯よりも少し低く45.9度。ウォーミングアッ プしていたおかげで難なく入ることができた。先客の女性が「端っこの下から熱い湯が出ているから、真ん中あたりに入ったほうがいいよ。あぁ、あなたは熱く ても大丈夫そうだね」と声をかけてくれた。ここまではよかった。
ふと気がつくと、脱衣所(浴場との境がなく一体型)で話し合っている数人の声が耳に入ってきた。「◯◯さんが来た時どうだった? ぬるま湯みたいだったでしょ?」、「旅行者が熱いからって水をたくさん入れ ちゃってさ…」、「勝手なことされてたまらないよね」、「他にもっとぬるいところあるんだろ?」、「あるある、なんでここに来るんだろう?」、「来なきゃ いいのに…」などなど…。
もちろん、私自身に向けられた言葉じゃないことは理解している。それでも小耳に挟んでなん だかすごく悲しく、透明人間になりたい気分だった。私に声をかけてくれた浴場の女性にも聞こえたみたいで、気まずそうな顔をしていた。浴場には旅行者に配 慮して湯の温度を43度くらいに調整しましょうというような張り紙があるのだが、どうも説得力ゼロみたいだ。
鯖湖湯は外も中も趣があって素晴らしい共同浴場だ。できればヨソモノにも開放を続けて欲しいけれど、これだけ地元住民から反感を買っているのでは、今のままの状態を続けるのはお互いにとって不幸ではないだろうか。私だって「来なきゃいいのに…」なんて言われるのはゴメンだ。ヨソモノが入浴可能な時間帯もしくは曜 日を設定するなどで、旅行者でも肩身の狭い思いをせずに鯖湖湯を利用できるようにしてもらいたい。