私はシフト制の職場に勤務していたことがあり、週に1、2回の早朝出勤の際は会社からチケットが出てタクシー出勤が認められていた。タクシー会社に電話して呼ぶこともあれば、家の近くで流しのタクシーを捕まえることもあった。
ある日乗った個人タクシーの運転手さんが、「定期的に早朝出勤があるのだったら、毎回私が迎えに来ますよ」と言い出し、ありがたく数年間利用させてもらった。前もって「来週は○曜日と○曜日にお願いします」と告げておくと、ちゃんと待っていてくれるのだから、こっちはすごくお世話になっている気がしていた。
当時の我が家から職場までのタクシー代は4000円弱。勤務が深夜に終わる際もタクシー帰宅が認められていたが、出勤時とは仕組みが違った。帰宅直前に会社側から「あなたは玄関前の○○○○番のタクシーに乗ってください」と指示され、乗るタクシーは毎回違った。
ある日の深夜帰宅の際に乗ったタクシーの運転手さんに言われた。「きのうのお客さんは小田原の手前まで乗ったいい客だった。行き先が23区内(私のこと)だとあ〜カスつかんじゃったっていう気になるんだよねぇ」。
私は別に腹を立てたわけじゃない。むしろ逆だ。『そりゃそうだよな、数万円稼ぎと数千円じゃ大違いだもんな。おまけに深夜1時をすぎていたら、次の客を見つけるのも難しいだろうし』と妙に納得してしまったのだ。
それ以来、タクシーには「乗せていただく」感覚になってしまった。今でも2、3000円のところにタクシーで行くときには「どうもすみません、近場で」と最初に謝ってしまう。
そんなわけで、シフト制から日勤に異動になってタクシー出勤の必要がなくなった時、くだんの個人タクシーの運転手さんには「今度から早朝出勤がなくなったので、地下鉄で通勤することになりました」と挨拶して、お世話になったお礼にハンカチをプレゼントしたのだった。
財務省ほかのタクシー接待の話を聞くにつけ、どうも自分がものすご〜く間抜けに思えてしょうがない。