そのミラー記者が30日の証言後、CNNに出演した。彼女の発言で印象に残ったのは次のくだり。
私はジャーナリストと取材源の秘密の関係を維持することがいかに重要かという信念を示すため、85日間にわたって収監されました。信じてもらいたいのですが、収監を望んでいたわけではありません。でも、2つの条件がそろわなかったら、私はもっと長期間にわたって拘束されてもかまいませんでした。その条件は取材源自身の個人的な許可と証言(内容)の制限です。この両方がそろわなかったら、私は証言しませんでした。…(略)…とても長かった私の収監が、報道者と情報源の絆を強めると私は期待しています。司法の介入に屈しなかったジャーナリストの自信がすがすがしい。格好よくて、感動して、ブルブルふるえちゃったぐらいだ。
翻って日本では、朝日新聞とNHKの問題に朝日新聞が結論を出した(あれが結論らしい)。朝日のサイトには第三者がつくるNHK報道委員会の見解、社長の見解、朝日新聞社の考え方と、3つ載っている。結論はざっくりいって「取材に問題はあるが、訂正は必要ない」ってことだ。えっ、これで終わりなの? マジですか?
だって1月19日付の「朝日新聞報道にNHK抗議 番組改変巡る記事で」っていう記事なんて、朝日新聞広報部のコメントとして「朝日新聞社が18日付朝刊に掲載したNHK問題の記事は、これまでの取材内容を正しく伝えたものです。取材方法も適正であったと考えています」って出ているんですけど。
1月21日の「NHKに訂正・謝罪求める 番組改変問題で本社通告書」って記事だって残っている。NHKに送った通告書について、朝日が1月21日の記者会見で「『誠意ある回答がない場合は法的措置を取らざるをえないことになる』と話した。」と出ている。NHKからなんて満足のいく回答があったはずないんだけど、法的措置はどうなってんの???
取材源の秘匿どころか取材源が自らノコノコ出てきて「それは私でした」と記者会見まで開いているのに、真実が明らかにされないでウヤムヤにされてしまうって不思議なことだ。朝日はあくまで「取材時には記事にしたことを確かに言ったのに、あとになってから違うことを言い出した」という立場みたいだ。それを言い張るなら、録音したことはゴメンナサイしちゃったとしても、テープを出して報道した内容に白黒つけたたほうが報道機関としてのスジは通せると思うのだけどね。
「朝日新聞は『取材のプロセスや取材内容の詳細は原則として明らかにしない』『原則として無断録音はしない』という姿勢を今後も堅持していく考えです」というのがなんだかしらじらしくて笑えた。一般論だと取材源を守るための原則に聞こえるんだが、朝日の場合は自らの保身のために使っているのが情けない。ニューヨーク・タイムズのミラー記者の例と比べると、なんの関係もない私が1人の日本人として日本のメディアに恥ずかしさを感じるぐらいだ。
毎日新聞の「NHK特番問題:朝日、新事実示せず幕引き 身内も批判」という記事の後半に朝日の秋山社長と吉田慎一前編集局長の記者会見の内容が出てくる。
−−取材者が処分されてないが。処分されるのは取材した人間じゃなくて所属長という社内規定があるんだ。検証前に若手記者をスパッと解雇した長野の捏造メモ事件と比べると、こっちの記者はずいぶん保護されているような気がするんだけど気のせい? 私は担当記者が記者会見すべきだったと思っている。ホリエモンじゃないけど、記者だって取材される側の気分を味わえばいいんだ。それに法的措置を取るっていっていたのは朝日じゃなかったの? 開き直りですか? めちゃくちゃだ。
吉田氏 社内規定で情報管理者は所属長になっている。
−−問題はこれで決着すると考えるか。
秋山氏 誠意は尽くした。納得できないなら法的対応を取って頂いても結構だ。(取材対象の)安倍晋三議員らについては、この見解を知らせ、どう対応されるのか見守りたい。
で、これからは取材を受ける人は逆録音をする(取材を受ける側が録音する)といい、と提案してみる。自分が言っていないことを書かれたら、テープを証拠に反論できるし。一般人だってネット上で反論するできるでしょ。「私は○○新聞○○記者のインタビューを受けましたが、話したのと違うことを書かれてしまいました。私が録音した一問一答は次の通りです」なんて公開する人が増えたら、マスコミも変わるのでは? インターネットの普及により、かつては存在しなかったマスコミ監視網が出来てきたことを、マスコミの人はどれぐらい自覚しているのだろう。
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