これを読んで分かったこともあれば、依然として分からないこともある。率直な印象としては「世界に名だたるクオリティペーパーとかいわれてても朝日新聞てたいしたことないじゃん」、「横の連携、情報の共有が恐ろしく希薄でヘンな組織」ってところ。
まず、解雇された記者が捏造メモを書くきっかけとなった取材のお願いは、こんな内容だったという。
自民党政調会長の亀井静香氏が13日か14日に長野県に行って、田中康夫・長野県知事と会談した模様だ。具体的なことはわからないので情報があれば連絡してほしい。なんだ、程度の強弱はあれ、最初から「長野県で会った」っていう先入観があったんじゃない。お願いの段階で「長野県に行って」となっている理由について具体的な説明がないのはなぜだろう。13日に「『亀井氏に近い新党関係者から「今日、亀井氏が田中知事に会いに行っている』と聞いた」というから、その際に場所が長野県だという感触があったのかな。取材先への配慮は分かるが、どうみてもこれは説明不足だ。
しかし、このお願いもなんだかなぁ。デキの悪いサラリーマンが書く社内メモの例として取り上げたくなるほどだ。私のところにたまに送られてくるメールを思い出した。旅行記のサイトをやっているせいか「○○について何でもいいので情報をください」とお願いされることがある。○○に入るのは国名だったり、温泉名だったりする。気合を入れて丁寧な返事を書いているうちに分かってきた。こういう人たちは「そんなことはとっくに知っているので、別のもっといい情報をください」と再度メールを送って来るか、お礼の返事もなくそのままになるかのどちらかが圧倒的に多い。それで最近は「具体的な質問にはお答えできますが…」と返事を出すことにしている。朝日のこのお願いも、私にとっては返事を書きたくないメールだな。
記事を書いた記者と捏造メモ記者(以下捏造記者)の間に何人も入っているせいで、検証の内容はややこしい。一度読んだだけじゃ理解できない。要するに政治部の記者が記事を書くのに上司が地方支局のトップに材料の提出をお願い、それが指示として下々に回ってきたという流れみたいだ。捏造メモも政治部の記者宛てではなく政治部のキャップにメールで送ったというのだから、記事を書いた政治部記者と長野総局の捏造記者との間で直接のやりとりはない。伝言ゲームみたいだ。
部外者にしてみれば、政治部と地方の記者なんて互いに活発に情報交換しているようなイメージがあるのだが、実際はお役所くさいうえに恐ろしく風通しが悪いとみた。こんなにまどろっこしい流通システムなのに、要所でチェック機能がまったく働いていないというのだから始末におえない。取材メモなんて社内の関連部署で共有して誰でも見られるようにした上、「確認は東京ではできなかったから長野で頼む」みたいにして、それを見たら上司の指示待ちなんてしないで自ら動くみたいにできないのだろうか。
この捏造記者が入社以来564本の記事を書いて訂正を1本も出していないうえ、取材先や読者からの苦情もなかったというから、自分が書く記事については細心の注意を払っていたんだろう。検証を読んだうえで想像してみると、東京の政治部記者が書く記事なんて、彼にとってはどうでもよかったのではないかと思えてくる。それで何が何でも取材しようという気になれず、適当につじつま合わせをして『記事を書く人が確認するだろう』と思っていた。ほかに関係ある人が何人もいながら、みんな透明人間または木偶の坊と化していた。逃げられなくなったのは康夫ちゃんが記者会見という公の場でばらしちゃったからだ。他人事ながらなんか空しい。
これは決して個人の問題じゃなく、組織がどこかおかしいのだ。ほかの新聞は大丈夫なのか。新聞に書いてあることがますます信じられなくなっていきそうだ。
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氷山の一角?(8月30日)
検証記事について書かれていたので、訪問させていただきました。メディアのこととなると極端に乱暴な見解がやたらと目に付くなか、こちらのサイトは冷静な視線が感じられ、とても好感がもてました。今後も楽しみにしています。
長野総局が『亀井氏は長野に来ていない』と回答していればそれで済んだように思うのですが…。地元とはいえ、そんなことまでは分からないのかな。知事張り番記者とかいないのだろうか?
そこから先は会談をでっち上げた「N記者」の独壇場になるわけですな。
会談場所は事の本質ではないと思うけど、内容まででっち上げたとなると悪質ですね。
はじめまして。同じようなことを考えていたのですね。
捏造記者には自分に都合のいい思い込みがあったことは否定しようのない事実ですが、最初にこの話を聞いたときには思い浮かべもしなかった「トカゲの尻尾切り」という言葉がふと浮かんでしまった私です。地方支局の若手なんてクビにしたっていくらでも代わりがいる???なんか本社サイドの偉い人たちの保身が透けて見えるような感じがしてきちゃいましたよ。
>ZWEISTEINさん
未確認情報の確認というのは「○○の確認が取れないから確認してくれ」というものですよね。上記で問題になっているのは「未確認情報の確認」を要請しているわけじゃなくて「情報の提供」をお願いしているのだと私は感じました。
それも手も足も出ないダルマの状態で情報の提供をお願いしているとしか思えません。唯一ダルマじゃないのは「長野県に行って」の部分だと感じました。
そのお願いを受け取った長野総局の人たちは亀井の動向なんて知る由もないでしょう。本来の取材対象じゃないんだし。本来なら「亀井番は裏が取れなかったので、会談場所や内容など、具体的な情報を入手できたら送ってください」とするべきだったと思います。
「具体的なことはわからない」というのが(いつどこで何の為に会ったのか会わなかったのか)未確認と言うことだと思いました。
会合の場所は本質ではないので、亀井氏と田中氏が会談したという情報を元に、会談の舞台になったらしい地区の支局(総局?)に政治部は確認を依頼したのだと思います。
確かに、「確認をしてくれ」と言われて「ハイあってました」という1bitの情報を返すだけではガキの使いか出来の悪いAI並ですから当然、会談したのであれば、会談の内容や場所も分かる範囲で報告が来る事を期待していたと思います。
そこまでは普通にある話かなと...。
おっしゃるようにおそらく亀井氏は長野総局の管轄ではないでしょう。むしろ政治部の担当なのかも。(この点は私の勘違い。m(__)m)
でも、長野総局は田中氏の動向は把握していたと考えられるので、「田中氏は亀井氏と(張り番している範囲では)会ってない」という回答ができたはずだし、回答すべきだったと思います。「朝日新聞から」を見た限りでは張り番も確認行動もしていなかったようなので、何も回答しないか、「まだ確認を取っていない」という回答が正しいのかも知れません。
らくださんは、ご自身への旅情報に関する問い合わせメールと比較しておられますが、片やボランティア、片やお仕事、なので全く同じには扱えないと思います。
「指示は具体的に」は部下を使う時の鉄則ですが、同時に、1を聞いて10を知るのも部下に求められる事ではあります。漠とした指示の下にどこまで指示者の意図を察して解を作ることができるかもサラリーマンの値打ちの一部です。
なので、この政治部の問い合わせメールの文面が責められるべきなのかどうかは微妙な気がします。
政治部と地方総局の関係や確認(取材)依頼の仕方の慣習にもよるでしょう。
いずれにしても長野総局(N記者?)の対応が道を大きく踏み外した第一歩だったと思っています。
忙しいのに、余計な仕事をよそから押しつけられて、対処がおざなりになるのは心情としては分かるし、気の毒なのですが、やはり最初の嘘をついた責任は逃れられないでしょう。
その後の政治部と長野総局の対応によってはリカバリが効いたのかも知れないですが、残念ながらそうはなりませんでした。それもお気の毒**2ですね。
といっても私自身だっていちいち説明してもらわないと分からないトロイ人間です。最初のお願いになぜ「長野県に行って」という部分があったのはわからないままだし、今でも不思議でしょうがありません。
私がお願いする立場だったらもっと具体的に書くし、このお願いを受け取った側だったら送信者に連絡して、追加情報を仕入れてから部下に回します。これだけをたらい回しというか丸投げするようなことはしません(私はまったくの部外者なので現場を知りませんが、実際的には殺人的に忙しくてそんな余裕は一切ないのかもしれません)。
そして捏造記者の立場だったら「宿直勤務に間に合うよう早めに出てきたのできょうは話を聞けませんでした。いつまでに確かめればいいでしょうか?」と言い訳しますが、それができる雰囲気なのかどうかは分かりません。
私がトロくて理解力がないということで言えば、「iPod nanoのプレゼントやっているけど、応募条件を満たしていないからチャンスかも。応募してはいかが?」と書いて、「応募しました」という反応は想定範囲内だし、そのつもりで書いたのですが、「本人も周りも危険なのでくれぐれも道を歩いたり自転車を運転しながら聴かれる事のないよう切望いたします」という発想は私には理解できないし、自分だったら絶対にそんなコメントは書きません。私の理解力はその程度だと認識していただければいいと思います。
鋭いですね。
いいえ、私は「外の人」です。まろさんは誤解されているのかもしれませんが、私は「1を聞いて1未満を知る」を自認しております。上記の一連のコメントを読めば分かるとおりZWEISTEINさんの方がずっと鋭いので、ZWEISTEINさんのブログを読むほうがずっとためになると思いますよ。
最初にコメントを投稿していただいたtmreijさんのエントリーも力作で読み応えがあるので、ぜひご一読を(これを読んでいる朝日新聞の方もぜひ…)