ある駅で老婦人が乗ってきて、私に背中をむける格好で斜め前方に立った。老婦人の前の席の人は寝ているのか、席を譲ろうとしない。ちょっとの間を置いて、老婦人の真正面から3人目の席に座っていたサラリーマン風の男性が席を立った。その男性が老婦人に向かって声をかけようとしたそのとき、男性の斜め前に立っていた女性(30代前半から半ば?)が滑り込むように席に座り、そのまま寝る体勢に。というか寝てしまったというか、寝たふりをしたというか…。
男性は「ここに…」と声をかけたところで席がなくなった気配に気付いて固まっちゃうし、老婦人も振り向いて事態を飲み込んだらしく、何て返事をしたらいいのか分からない様子だった。反対側の座席でみていた私は目をパチクリ。一瞬、回りの空気が固まっていたよ。
自分の前に立っている老人を無視するかのように熟睡(のふり)した挙句、老人が降りていったら急に目が覚める器用な人は、これまでも何回か見たことがある。でも、老人を差し置いて席取りゲームみたいにして座ったあげく、秒速で眠りにつく人は初めてみた。きのうといい、きょうといい、こんなところに出くわすと心がささくれ立ってしまう。この女性、よほど疲れていたのか具合が悪かったのかもしれない、と好意的に解釈して自分を落ち着かせた。
それで私がその老婦人に席を譲ったかって? ちょうど次の駅で降りるところだったので早めに席を立ったけど、老婦人が座ったかどうかまでは見届けなかった。