2005年07月03日

パキスタンの戦う女

 2005年も折り返し地点をすぎたばかり。「今年の人」について語るには早すぎるとはいえ、私が勝手に決めるとしたら今年の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」はパキスタンのムクタル・マイさん(33)が有力だ。上半期だけに限ってみればぶっちぎり。なぜか日本のメディアはほとんど関心がないらしい。

 マイさんはパンジャブ州の寒村に住む文盲の女性。2002年2月、マイさんは別の部族であるマストイ族の男14人に襲われ輪姦された。マイさんの弟がマストイ族の少女をたぶらかしたという口実で、マストイ族の長老らが襲撃を命じたのだ。マストイ族はマイさんの部族よりも力があるとされている。あとになってマイさんの弟も被害者だったことが判明する。マストイ族の3人の男に性的なイタズラをされそうになり、犯人たちが事実を隠すために作り話をしたのだった。

 マイさんは自殺を考えたが踏みとどまり反撃に出た。村人200人余りからの支援も得られ、犯人たちを訴えた。メディア戦略も考え、マスコミにも進んで顔をさらした。こう書くと簡単だけど、女性が目立たつことが犯罪ともいえる国だから、たぶん国内では非難の声も強かったはずだ。

 彼女のすごさはそれだけじゃない。手に入れた賠償(見舞い?)金で彼女の村に初めての学校を2つ建てたことだ。費やしたのは9400ドル。教育を受けていない彼女が「教育は、権利と義務を自覚させることで人々を変える」と、教育の必要性を認識しているのには恐れ入った。彼女自身は教育を超越しているらしい。彼女を支えているのは何なのだろう?

 一審では実行犯4人とマイさんの襲撃決定に加わった2人の計6人に死刑判決が出た。ところがラホール高等裁判所の二審判決は5人の無罪釈放を命じるとともに、1人を無期懲役にする減刑。ここらあたりで欧米のマスコミが問題として取り上げ、ムシャラフ大統領は6月、訪問先のニュージーランドで「(パキスタンが)ほかの発展途上国よりも悪いということはない」と弁明を迫られるほどだった。

 最高裁は先週、5人の無罪釈放を取り消した。これで一件落着、3年にわたる彼女の戦いが終わった(注:終わったと思ったのだが、実は裁判は続いていて2011年4月21日に彼女の上訴が棄却されて終わった)。世界各地から招待されているマイさんは政府にパスポートを取り上げられて行動の自由を奪われていたが、無事にパスポートを取り戻すことができたそうだ。欧米を講演行脚する日も近そう。彼女には世界各地から募金が寄せられていて、十分な資金が集まれば11月には学校に電気を引く見通し。

 ただ、こういう犯罪はこれ一件だけじゃないはずだ。マイさんの話が国際的に関心を集めた結果、パキスタンの女性の地位向上につながることを祈る。私が唯一不満なのは、マイさんのウェブサイトhttp://www.mukhtarmai.comが世界中からのアクセス殺到で開けないこと。もっと転送量の制限が緩いところに引っ越せばいいのに(注:2011年4月現在、上記サイトは閉鎖されているのでムクタル・マイさんのツイッターを参照してください)

【参考サイト】
The rape victim who fought back(BBC)
Pakistan rape acquittals rejected (BBC) 
posted by らくだ at 22:36 | Comment(6) | TrackBack(0) | 国際ニュース | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
う〜ん、確かに凄すぎる、そして尊敬に値する人物ですね。
このブログを読んでいなかったら知ることのなかった人でしたね、私にとっては。
らくださんの取り上げる話題はとてもグローバルなので、自分の生活範囲だけにとどまりがちな視野が拡がる感じがします。


Posted by ぶたまねき at 2005年07月04日 07:07
私もこういう人がいたことを、ここで初めて知りました。

ねつ造しなくてもいっぱい良い記事はあるんですよね。
Posted by ひろや at 2005年07月04日 14:48
女性は強い。。。って言っちゃうと偏見かもしれないけど。

でも、女性なりの強さって男にはないからね。
Posted by yuu013 at 2005年07月04日 18:49
 新聞の国際ニュース面といったら1〜2ページですから、どうしてもこういうニュースが載るチャンスは少なくなってしまいますね。

 私が学校にも通わず字も読み書きできないとして、こんな目に遭わされたとしたら、自殺するか自宅に引きこもって一歩も外を歩かずに余生を過ごすかではないかと思います。彼女の勇気と行動力にはただただ感服するばかり。

 泣き寝入りしようとしている世界の多くの人々に彼女のことが広く知れ渡るといいな、と思います。インターネットってそういう目的には利用価値が大きいと思うんです。
Posted by らくだ at 2005年07月04日 21:03
強い人ですね。

日本でも近年は、女性が泣き寝入りではなくて訴えられる環境になった(それともなりつつある)ので良い事です。社会の様々な点で男尊女卑から男女平等に移り変わるのは良いことなのですが、実は・・・女性が社会進出するにつれて女性が起こす犯罪や問題も男性に負けず劣らず増加したとか・・・。性別は関係ないということですね。個々の性格によるということかな。

そう、個々の性格による、というわけで、07/01のらくださんの日記「荒らしの季節?」の感想として無理矢理結び付けます。
「雑誌取材を断った」という日記は、特に悪印象を与える文章ではないし、コメント欄で、その日記の内容に対して否定的な意見を書き込まれていた人の論点と話の筋道は、いい加減ですね。だから、らくださんが自分自身を責めないでください。パキスタンのマイさんのように強く生きてください・・・ではなくて、らくださんらしくマイペースにこれからもお願いします。そして、これからもハググはらくださんの日記を読ませていただきます。

気分が滅入った時のアドバイス・・・5分間柔軟運動をしてみるのはいかがでしょう。私の場合、屋内運動で体が程よくぬくもると気分が鬱→憂に変わって嫌な気分も吹き飛びます(笑)。5分間だけでも結構いい運動になりますよ〜。実は長時間えらい事をしたくないだけだったりします〜(笑)。
Posted by ハググ at 2005年07月04日 21:20
 ハググさん、いつも来てくれて、こまめにコメントも書いてくれてどうもありがとうございます。

 気がめいったときに柔軟体操やってみますね。
Posted by らくだ at 2005年07月05日 00:10
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