昔々その昔の高校時代に「電車で寄りかかって来る人」の話でクラスメートと盛り上がったことがある。学年で一番の美人と誰もが認めていたKちゃんが、「そんなの肘でグイッて押し返すに決まってるじゃない!」とバッサリ切って捨て、『美しい人はそんなことができるんだ。強くていいなぁ。あたしゃとてもそんなことできない』と感心したことを久しぶりに思い出した。
私の対応ときたら、(1)疲れているんだろうから、とそのまま我慢する(2)電車が停止する時あるいは発車する時の揺れに合わせてそっと押し返す(3)少し前にずれて座る−−のいずれかだ。それは高校時代もオバサンになった今も変わっていない。
で、きょうはどうしたかっていうと、ちょっと違った。ちらっと見たら、学生とおぼしき青年はかなりお疲れなのか、口をだらしなく開けて熟睡している。しかもその口元からはヨダレがツ〜とポロシャツに落ちている。
この様子じゃ、電車の揺れに合そっと押し戻すぐらいじゃ効き目なさそうだ。それに私が前にずれて座っても、その人が倒れてきたら私の背中にヨダレがつくかもしれない。しかも、その人の頭からはどことなく不快な匂いが漂ってくる。つまり臭い。
重さと匂いのダブルパンチはつらすぎる。乗り換え駅まであと30分あまりあるのだが、このまま座っているよりはマシと思って立つことにした。
次の瞬間、斜め前方で背中を向けていた派手な服装のオバサン3人組が「あ、あいた!」とこちら目掛けて突進してきた。(私はドア際に移ったので、以下はすべて背後で聞こえた会話の内容)3人でひとしきり遠慮しあった末に1人が座ったが、ものの数分もしないうちに1人が「なんか臭くない?」と言い出した。最初は「えっ、そうかしら?」などと言っていたオバサンたち、そのうち匂いの元が分かったのか青年に目をつけたらしい。「ちょっと奥さん見て」、「あら汚い」なんて声があたりに響きわたった。
なんだか自分の粗相を指摘されているようで、こっちが恥ずかしくてドキドキしちゃった。怖くてとても後ろを振り向けなかったのだが、あの青年はそのまま眠っていたのだろうか? (そのまま何も知らずに眠っていてほしかった)
「3本の矢」じゃないけれど、オバサンが3人集まるとすごいパワーが出るもんだと感心した。1人じゃとても無理だけど、あと2人仲間がいたら私もあんな「おばさん力」(オバサンリョクと読んでください)が出せたかな? ちょっと自信がない。3人はオバサンとしては私よりも少し先輩に見えたから、あと数年であの境地に達するのだろうか。