2011年11月11日

災い転じて福と成す

一年ぶり今年初めての台湾で絶体絶命のトラブルに巻き込まれたものの、気がつけば無事に切り抜けられていた。しかも、すごくおいしい思いをして。私を乗せたタクシーの運転手さんにとっては、悪夢のような出来事だったに違いない。

9日のことだ。ある町でタクシーの運ちゃんに料金交渉して2時間弱かかる温泉(野湯)に出掛けた。現地に到着後「車は侵入禁止」の注意を見落とし、細い急勾配の下り坂にタクシーで侵入してしまったのが失敗の始まりだった。

IMG_6647.jpgこんな道に入って大丈夫なのかなぁと思わないでもなかったんだけど、こっちはペーパードライバー、向こうは職業ドライバーなのだから余計な心配なんだろうな〜と思った。いよいよ道が狭くなり、運ちゃんに促されて車を降り徒歩で温泉に往復した。あとから男性2人組がやってきて、外国人が1人でやってきたことにビックリしていた。

温泉を堪能してタクシーに戻ると運ちゃんがいない。声を出して呼んでも反応がない。この時点ではまだ深刻なトラブルに気づいていなかった私は、『車を動かすと私が心配するから、ここに車を置いたまま上の集落にお茶でも飲みにいったのかな』なんて悠長なことを考えていた。

それにしても遅い。なんとなく不安になり、坂の上の方まで探しにいくことにした。坂を上りきらずに途中でしばらく待っていると、上から軽トラがやってきた。助手席にはタクシーの運ちゃんが乗っている。

タクシーが立ち往生してしまい、運ちゃんがどこかから牽引車を呼んできたのだと理解するまで、ちょっと時間がかかった。事態を飲み込むと絶望的な気分になった。

だって降りてくるときだって、あんなに何回も切り返したのに、牽引してもらってカーブが曲がれるわけない…。私の予想通り、タクシーは数メートル進んだだけでカーブは曲がれなかった。

しばらくして、2人は再び軽トラに乗って「ちょっと待ってな」と言ったままどこかに行ってしまった。坂を歩いて上り、雨の中をじっと待つ。坂を上ったところにある集落は家が数軒あるだけ。車なんて一台も来ない。

30分、1時間、1時間半と待っているうちに顔がひきつってきた。雨は強くなるし、あたりは薄暗くなってくるし。今日は傾いたタクシーに戻って、そのなかで寝るしかないのだろうか。集落にある売店で水と乾き物程度は買えるとしても、夜のトイレはそのへんで…などと考えると、どこまでも暗くなっていった。

そこへ温泉で会った二人組が戻ってきた。「タクシーが立ち往生しているのを見たよ。とんでもないことになったね。僕たちの車に乗せてあげるよ」。中国語はできないのに、なぜかこのときだけは完璧に理解できた。

まさに渡りに船。喜んで乗せてもらう。タクシー料金を払っていないのが気になったけれど、途中ですれ違う車がいたら例の軽トラに違いないということで出発。実際、一台目の対向車が運ちゃんの乗っている軽トラで(それほど車が通らないのだ)、料金を踏み倒さずにすんだ(会えなかったらタクシーを見つけた町の警察署に行って事情を説明してお金を預けようと思っていた)。

私を拾ってくれた2人は、会社員でバツイチのリョウさんと失業中のアゴッ。高校の同級生だそうで、たまたまリョウさんが平日に休めたので2人で温泉に来たのだった。この温泉を訪れるのは年に1、2回。平日に行くと普通はほかに誰もいないそう。彼らに会えた私はすごくラッキーだった。

2人が「体が冷えたからスープを飲んで行こう」というので、屋台にでも寄るのかと思って同意したら、すごくオシャレなレストランに入っていった。オーガニック食材を使っているレストランで、客の服装もこざっぱりしている。どうみても野湯帰りの私たちには不釣り合いだ。

すごく混んでいて1時間待ちと言われたので諦めたけれど、私に気を使っておしゃれな店を選んでくれたに違いなく恐縮した。次に入ったのは海鮮料理の店で、ここも結構高そう。刺身から始まって鶏、海老、青菜炒め、魚、蛤のスープ、イカなど、次から次へと料理が出てきた。

車に乗せてもらったお礼に私が食事代を出すつもりだったけれど、こりゃ高そうだな〜と青ざめる思いだった。ところが、トイレに席をたったわけでもないのに、私が財布を取り出す前にいつのまにか勘定が終わっていた。

食事が終わりバス乗り場へ。車に乗ったままちょっと待っててと言われ、気がついた時にはバスの切符まで買ってくれていた…。

彼らは「台湾人だって一人であんな温泉に行かないのに、日本人の女の人が一人できて、しかも台北から日帰りするなんてスゴいと感心したから」と言う。「スゴい」だけ日本語だった。

私は友人の情報を基にしてマネしただけなのに。あまりにも嬉しくてありがたくて涙ぐんでいたら、「台湾には悪い人もたくさんいるから、知らない人を信用しちゃだめだよ」と言われ、「あなたたちがよく言うよ」って泣き笑いになってしまった。

この2人に拾ってもらえなかったらどんなことになっていたか、想像するだけで恐ろしい。天国と地獄は紙一重だ。

posted by らくだ at 09:16 | Comment(2) | TrackBack(0) | 旅日記ほか旅関連 | 更新情報をチェックする