封切り後3週間にしてようやく映画「剣岳 点の記」を見に行くことができた。友人(正確には父の友人だが今じゃ私にとっても友人だ)が技術指導やチョイ役、危険シーンのスタントで撮影に関わり、ぜひ見てほしいと前売り券を送ってくれたのだ。
見る前に原作を読んだ方がいいと言われ、実家にあった昭和52年の初版本(写真右上)を読んで行った。私の場合は確かに前もって原作を読んでいってよかったと思う。原作の淡々とした感じは映画にも反映されていた。原作にないドラマチックな演出は多少あったけれど。
絵にこだわってつくっただけあり、山の景色が素晴らしい。雪渓を登っていく人間たちがなんとちっぽけに見えることか。撮影は想像を絶する大変さだったに違いない。ヴィヴァルディの音楽が山のシーンによく合っていた。
ただ、アムンゼン対スコットみたいな話や人間模様を期待して見に行くと、肩透かしを食らった気分になるかもしれない。新田次郎は集めた資料を忠実に小説として再現、基本的に映画もそのスタンスを貫いているからだ。
要するに“映像”として心に残るシーンはいくつもあったのだが、“映画”としていつまでも私の心に残るかっていうと、それは疑問だ。山好きの人なら絶対に気に入ると、自信を持ってお勧めできる。逆にいうと一般人の評価は分かれるかもしれない。
豪華キャストの中でガイド・長次郎役の香川照之の演技が光っていた。この人の演技は期待外れだった記憶がない。いつもうまい。安心して見ていられる。次は何を演じるのか楽しみな俳優の1人だ(この映画とは関係ないけれど、若手ではマツケンこと松山ケンイチに注目している)。
個人的には最後に字幕で説明が欲しかった。この映画(というか原作)は実話に基づいていること、測量隊の選んだルートの谷は長次郎の名前にちなんで「長次郎谷」と名づけられ、これからも語り継がれていくであろうことを。そうしたらもっと感動していたと思う。ま、そういうことをしないのがこの映画の持ち味なのかもしれない。
2月にもらったプレスシート(劇場用パンフレットと内容が違うかも…)には新田次郎の息子の藤原正彦が文章を寄せていて、「これを一番見てほしかったのは父だ、としきりに思った」とまとめている。私も父に見せてあげたかった。映像を楽むのはもちろん、友人の名前をエンドロールに見つけてすごく喜んだに違いないから。私もなんだか誇らしい気持ちになって映画館を後にした。
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