台湾に滞在していたうちに、ネットユーザーにとっての大ニュースがあった。一般的にも大々的に報じられており、帰りの機内で読んだ新聞で知った。タレントのスマイリーキクチさん(テレビで見た記憶がなく顔を知らない)のブログに殺人予告をはじめとする誹謗中傷を書き込んだ17〜45歳の男女18人が名誉棄損や脅迫の容疑で2月4日に書類送検された(
参考記事=毎日新聞)。
全然知らなかったのだが、スマイリーキクチさんが1988年の女子高生コンクリート詰め殺害事件に関与しているという事実無根のうわさは約10年前からまことしやかに流れていたのだという。その10年間の本人の心情を察するにあまりあるわけだが、書き込みをした当の本人たちは「軽い気持ちでやった」とか「皆が犯人だといっているので本当だと思っていた」と罪の意識は皆無だった様子なのが心底こわい。
それほど話題になっていないけれど、ニュースはもう一つある。ヤフーニュースが2月5日にリニューアルされ、コメント投稿者のIDが一部伏字ながら公開され、その人が過去に投稿したコメントまでたどれるようになったのだ(
ヤフーの発表)。過去の自作自演が今になってバレ、恥をさらしている人もいる。
こうした動きに「言論弾圧に近い」と反発する人もいるのかもしれないが、私はたとえ匿名での書き込みでも自分の書いたことには最後まで責任を持つべきだと思っているので、今回の摘発やヤフーのリニューアルは大歓迎だ。ただ、こうした動きにネットでの誹謗中傷に対する抑止効果があるかっていうと楽観できない。
スマイリーキクチさんの件は、芸能人であることとコンクリート詰め殺人という事件のインパクトが大きかったせいで警察が動いたんだと思う。私の泡沫ブログには「殺してやる!」はなくても、たまに「死ね!」という書き込みはあるし、「このボケ!」だの「豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」なんてのもある。一晩で300通近い嫌がらせのメールを送ってきた人もいる。
警察に「豆腐の角に頭をぶつけて死ね!と書かれました」なんて被害届け出す人もいないだろう。警察に行ったところでまともに相手してもらえるとも思えないけれど、一晩で300通のメールなら動いてくれるかな。今回の摘発に伴って警察に駆け込む人は増えているのかもしれない。
私が楽観的になれない最大の理由は、ネットユーザーのリテラシーの低さを実感しているからだ。有名企業でさえネットリテラシーについての社員教育が行き届いているとは思えない。というのも、私のブログには複数の一部上場企業のホストからいたずら書き込みが何回もあった。匿名ならバレないとでも思っているのだろうか。また、本名と所属を明らかにした上で第三者のメールを(個人名やメールアドレスといった個人情報が書かれたまま)得意気に転送してきた人もいる。個人情報保護なんていう観点はまったくないらしい。
あまにも腹立たしかった時は当該企業の総務部に電話しようか迷ったくらいだ。結局は面倒くさくて電話しなかった。ネットでは簡単にダークサイドに引っ張られる。ネガティブな力に基づいて行動したくないと思ったのも電話しなかった理由なのだが、電話していれば無知な人を矯正することができたのかもしれない、と今になって思う。
ネット暴力の被害者/加害者にならないため(なんだかミスチルの歌みたいだ)に私が心がけているのは(1)たとえ匿名での投稿であっても自分の正体がばれてマズイことは絶対に書かない(2)ネットの世界ではダークサイドに引き込まれやすいことを自覚する(3)送信したメールは誰に転送されるか分からない(4)ネット上にはリアルの世界では絶対に出会うことのない不思議かつ個性的な人が存在し、お互いに理解し合えない可能性があることを認識する(5)他人を自分の思い通りにしようと思わない(6)考え方や価値観を一方的に押し付けてくる人、悪意をむき出しにする人からはできるだけ遠ざかる−−ということくらいかな。
昨年末に某大手ポータルサイトの人との会合で盛り上がったのは、悪意のある人よりも、悪意は全くないのにどこまでも無神経で空気の読めない人のほうがタチが悪くて破壊力も大きいってことだった。被害者になったときは逃げるが勝ち。どこまでも存在感を小さくするしかないのだが、こうして自分の居場所を持ってしまうとそれが難しくて困る。去年はいろいろと疲れたが、今年はのんびり平穏に更新したいものだ。