ここ数日、ブログを更新する暇を惜しんでユン・チアン&ジョン・ハリデイ夫妻共作の「マオ 誰も知らなかった毛沢東」を読んでいた(もう1つのブログは更新してただろ!と言われたら、ハイその通り。どうもすみません)。膨大な資料と多数の関係者へのインタビューに裏打ちされた力作だ。
毛沢東をはじめとする登場人物のキャラクターが鮮やかでいきいきと表現されていて、飽きずに上下巻を読んでしまった。
毛沢東といえば人民による人民のための革命を指揮した人ってよりも、冷酷非情な専制君主だったということは、今では定説になっている。この本はそうした見方にさらに磨きをかけ(?)、変質的なまでに自己愛が強く他人を全く信じない人間、他人を追い落とすことでトップの座に上り詰め、それを維持した孤独な独裁者として毛沢東を描いている。
毛沢東関連本をたくさん読んでいるわけじゃないけど、ここまで辛辣なのは初めて読んだかもしれない。文革で辛酸を舐めた著者が書いていることを思えば納得もいく。
個人的に意外だったのは周恩来の扱い。米中国交回復などで活躍したせいか、私としては悪役というイメージはそんなになかった。それがこの本では自己保身のために毛沢東の腰巾着に成り下がる日和見迎合主義者のイヤらしい奴として描かれている。毛沢東にいくら尽くしても、ガンの治療を許可してもらえなかったというのが哀れだ。ま、でも私の中では周恩来はかなりイメージダウンした。
人民の味方をした真のヒーローとされているのは劉少奇と彭徳懐。劉少奇は夫人の王光美とともに気骨のある人物として描かれ、毛沢東の謀で失脚する場面は読むのがつらかった。
名著「ワイルド・スワン」の著者が書いているだけに文革についての記述が多いのかと思っていたら、予想以上にあっさり。江青&四人組についてもそれほど書き込まれていなかったのが意外だった。要するに各時代がバランスよく書かれていた。
私のような門外漢にはとても面白い本だった。果たして中国専門家はこの本にどんな評価を下しているのだろう。キワ物扱いの人もいるかもしれない。
この本の登場人物に1人だけ会ったことがある。毛沢東シンパとして名前が出てくるハン・スーイン女史(映画「慕情」の原作者)だ。彼女の名誉のために書いておくと、少なくとも80年代末の段階では彼女は毛沢東についての本を書いたことを恥じていて、サインをお願いしたら「私が書いた一番つまらない本にサインしろなんて物好きね」と苦笑された。