テレビは当然ながら渋井陽子を中心に実況中継していて、弘山が出ているのに気づくまで5分ほどかかった。正直いって「あれ、まだ走っているんだ」と思ったし、実況でも「10回目のマラソンです」といっているぐらいで注目度は低かった。
渋井はペースメーカーを振り切って独走したかと思ったら集団に飲み込まれ、気づいたらまたトップを独走していた。こうなったからには、このまま最後まで行くんだろうなぁと思い、テレビの前をいったん離れた。
過去を振り返ってみれば、弘山がマラソンレースでゴールして嬉しそうな顔をしたのを長らく見たことがない。オリンピック代表選考レースでも涙をのんできて、「トラックの栄光を打ち捨ててマラソンに転向したものの、その後はパッとしない人」のイメージが強かった。
その弘山がきょうは違った。テレビで見ていてもトップを走る渋井との差をじりじりと縮め、ラスト1キロぐらいで追いつくと一気に抜き去った。どこにそんな力が残っていたのだろう。10回目にして初優勝だそうだ。
ゴールしてからコーチをしているご主人とガバッと抱き合ったのを見たら、ついつい涙が出てきた。37歳。おめでとう。優勝インタビューでは「これからも走る」というようなことを言っていた。いけるところまでいっちゃえ!
マスコミ受けするようなことは言わないし、華やかさもない。テレビのバラエティ番組にはまったく似合わない。でも、こんな地味な選手が頑張ってくれたことが静かに嬉しい。彼女らしい勝ち方だった。
渋井はゴールしてうつむき加減。コーチや同僚に抱きかかえられているときは泣いていたみたいだった。ゴール後に弘山に歩み寄って祝福の言葉ぐらい掛ける欲しかったけど、よほど悔しかったんだろう。この2人、レース運びも対照的だったな。
夜7時のNHKニュースではカーリング、フィギュアスケート男子ジュニアのニュースのほうが先に伝えられていたのは、ちょっとさびしかった。
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