2006年02月08日

イスラム教冒涜で国籍を剥奪された友人

 ムハンマド(マホメット)を風刺したマンガをめぐる騒動で、久しぶりにある友人のことを思い出した。インドで学生生活を送っていた時に知り合った彼は、バングラデシュ出身ながら国籍を剥奪されて無国籍状態だった。

 もともとは海外の文壇でも名前を知られた若手詩人で、国内では名士の扱いを受けていた。バングラデシュ独立戦争について書いた詩が国内の大手新聞に掲載されたことで人生は一変する。「あんなに多くの人が死んだのに、アラーもキリストもブッダも屋根の上でバイオリンを弾いていただけで何もしてくれなかった」という部分があったからだ。

 その日から嫌がらせなんでもんじゃない、家を焼き討ちされ、兄弟や親戚まで棒で叩きのめされた。本人は半殺しの目に遭って命からがらインドに逃げてきたという。そのインド政府も市民権を認めず、彼は10年近くも無国籍状態で不法滞在していた。

 一度聞いてみたことがある。「問題の詩を書いたことを後悔している?」って。彼は少し考えてから「自分は言葉の芸術家。自分の作品には自信を持っているし、最後まで責任を持つ。だから答えはノーだ。ただ、新聞社や家族に迷惑をかけたことはすまないと思う」と言った。

 バングラデシュが民主化しても祖国には帰れず、今はドイツの市民権を得てベルリンに住んでいる。サルマン・ラシュディ氏の話がニュースになるたびに思い出していたのに、最近はラシュディの名前も伝えられることがなくなってすっかり忘れていた。

 一般論で言えば、彼の詩はまったく誹謗中傷とは思えない。キリスト教徒も仏教徒も焼き討ちどころか抗議すらなかったという。「イスラム教を冒涜した」といわれてしまえばそれまでだが、それを理由に表現の自由を封じられ命まで脅かされるのは、地球上に住む1人の人間として私には理解できない。

 今回大問題になっている風刺マンガを私は見ていないので、真面目な批判なのか、おふざけの誹謗中傷なのか、自分としての判断ができない。それでも「表現の自由」と「宗教への敬意」ということになったら、友人のことがあるせいか私は「表現の自由」を重視したい。彼は今回のニュースをどんな気持ちで受け止めているのだろう。
posted by らくだ at 23:30 | Comment(5) | TrackBack(1) | 国際ニュース | 更新情報をチェックする