2005年08月24日

手錠の重さ

 久しぶりにカッパのことを思い出した。もちろん本物の河童のことじゃない。本名はサトシといったはずだ。といっても昔の彼氏でもない。苗字も知らないし、今となっては顔も覚えていない。

 突然思い出したのは、宮城県で中学生が警官から拳銃を奪おうとして後ろから刺すなんて事件を起こしたからだ。最初に「中学生が警官を刺した」って聞いたとき、正直言って頭のどこかで「また中学生の刃傷事件か」と思った。この中学生が「警察の仕事に興味があります。夏休みの自由研究で取り上げたいので教えてください」とかウソをついたというのが、なぜか警官を刺した事実よりもショックだった。人の善意につけこみ、相手に後ろを向かせて襲い掛かるその卑怯さが許せない。

 カッパは私が小学校2年生のときに知り合った警官だ。一緒に遊んでいたエリちゃんが転んでヒザをすりむいた時、赤チンを塗って手当てしてくれたのが近所の交番にいたカッパだった。その日以来、エリちゃんと私はたまに交番へ遊びに行くようになった。当時は治安もよかったし、周囲には繁華街もなくて大きな団地があるだけだったから、カッパは大抵いつもヒマそうだった。

 もちろん最初からカッパと呼んでいたわけじゃない。「お巡りさん」から始まって「お兄ちゃん」と「サトシ」を経て、"ひさし状の髪の毛が河童に似ている"という理由で「カッパ」に落ち着いた。小学生に同レベル扱いされてタメ口きかれたり、カッパと呼ばれたりしても、本人はまったく怒ることもなく相手をしてくれた。今思うと、相当我慢強い性格だったんだな。

 ある日、私たちはクラスの男の子たちも誘って5、6人で交番に遊びに行った。カッパは私たちを見回すと手錠を取り出し、1人ずつ順番に片手に手錠をかけた。それまでテレビで見た手錠というのはもっとずっと軽そうだったのに、初めて(でいまんとこ最後)の手錠は冷たくて、そしてビックリするほど重かった。みんなが「おも〜い」と騒いだ。犯罪というものの重さを生まれて初めて実感した瞬間だった。カッパは「悪いことをした人は一生、手錠をして暮らすんだよ」と、今にして思えばいい加減なことを言ったのだが、私たちはそれを神妙な面持ちで聞いた。

 そのうち私たちは交番には遊びに行かなくなってしまった。新しい公園が学校を挟んで交番とは反対側にできたのが大きかった。何カ月かして交番に行ってみたらカッパは異動したのか、いなくなっていた。

 犯罪者でもない一般人、それも小学生に手錠をかけるというのは今はもちろん、当時だって規則違反な問題行為だったと思う(今なら下手すれば「警官、交番で女児に手錠プレイ」なんて書かれかねない)。それでも私はカッパが手錠をかけてくれたことに感謝している。私がも持ち合わせている犯罪抑止力の中身は、しつけ・教育・経験を通じてこれまでの人生で身につけた常識や倫理観よりも、あの時の手錠の重さのほうが大きいような気がするのだ。あのズッシリ感は強烈だった。あたしって感覚的な人間だからな。

 こんな事件でカッパのことを思い出すなんてヘンな気分だ。本人は私のことなんてもちろん全く覚えていないだろうけど、「手錠をありがとう」って書いとく。
posted by らくだ at 23:16 | Comment(5) | TrackBack(0) | 話題 | 更新情報をチェックする
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