流れてしまったに違いないといったん諦めたのだが、しぶとく残っていた。キーリングの一部がみえる。どうしよう? 一瞬迷った。帰れば夫がいるから家に入れないことはない。自分用のスペアキーだってもう1つある。でも、このままカギを置き去りにするわけにもいかない。
幸いにしてカラのレジ袋を持っていたので、それを手にかぶせてカギを拾い上げた。そのままの格好で水をなるべくふるい落とし、飛び散った水を拭いてから個室を出たら、ちょうど就職活動中らしい女子大生が入ってきたところだった。マズイところを見られた。
彼女、一瞬不審な表情を浮かべたが、右手にレジ袋をかぶせてその先にカギを持っているのだからすぐに事情を察したらしい。かなり激しく笑われてしまった。そうだよな。私だってこんな姿の人見たら爆笑しちゃうよ。「いや〜、ちょっと…」と苦笑いしてその場を取り繕った。せめてカギを洗うまで誰にも見られたくなかったな。
帰ってきて夫にその話をしたら、すっごくバカにされた。「自分だったらどうするのよ?」と聞いたら、「トイレにカギなんか落とすはずないから、考えようもない」とキッパリ言われた。あたしだってこんなの初めてだよ。